中国から株価操縦 防止へ日中連携 きっかけはココカラ

 日中首脳会談に合わせ、両国の金融当局がある覚書を交わした。株価の不正操作を画策する違法行為に対し、連携して取り締まるという合意だった。きっかけは3年前、大手ドラッグストアのココカラファイン(横浜市)の株価に生じた「異変」だった。 2015年7月8日午前9時。東京証券取引所が開いた直後に、不審な取引が始まった。 9時6分から17分にかけて、1人の投資家がココカラファイン株の売買発注を秒単位で繰り返していた。100~200株の小口発注が大半だが、ほかの投資家の目を引く狙いなのか、千数百~2千株の注文も混ぜ込んだ。 すぐに市場は反応し、株価は4105円から一時、4220円まで上昇した。だが、すべては相場操縦のための見せかけだった。 わずか11分の間に42万6千株の取引を申し込んだが、大半は売買の意思のない「見せ玉(ぎょく)」で、実際に取引が成立したのは5万5千株だけ。株価が変動するとすぐにキャンセルし、株価が高止まりしたときだけ売り抜けるなどの不正を重ねた結果、この投資家は11分間で130万円をもうけたという。 投資家は7月14日までの間、取引開始直後に「見せ玉」を繰り返す行為を重ねた。短い日は数分間、長い日でも1時間。ココカラファイン株の取引だけで5日間で493万円を稼いだという。 「典型的な株価操縦だ」 東証を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)の監視チームは違法行為を察知した。証券取引等監視委員会とも連携して調べると、日本の株の取引が可能な米国のサイトを使い、中国から発注していたことが判明した。 だが、日中の証券監視当局には当時、捜査機関のような協力関係はなく、人物の特定はおろか犯意の有無の確認ができなかった。中国側の中国証券監督管理委員会に照会と調査を求めたものの、相手にされなかった。 なすすべなく棚上げ状態が続いたが、17年5月、ジャマイカで開かれた証券監督当局の国際会議で突破口が開けた。 監視委の引頭麻実委員(大和総研出身)が中国証券監督管理委の講演をのぞくと、首脳の1人が中国の証券市場の透明性と、先進国並みに不正監視に力を入れていることを力強くアピールしていた。 「もっと詳しく話を聞かせてほしい」。引頭氏は講演後、この首脳を呼び止めて英語で語りかけた。首脳も喜んで立ち話に応じた。引頭氏は話の最後に、「ところで……」と言って日本側が抱える懸案について説明した。すると首脳も状況を理解し、協議に応じる考えを引頭氏に伝えたという。 金融庁や財務省から出向している日本大使館の職員も加わり、中国側と協議や調査を重ねた結果、ココカラファイン株の相場操縦をしていた投資家を特定。20歳代の無職男性だと分かった。定職に就かず、株への投資で生計を立てていたという。 監視委は6月、この投資家に対し493万円の課徴金納付を命じるよう金融庁に勧告。金融庁は近く、命令を出す方針だ。 「本件については中国証券監督管理委員会から支援がなされている」。勧告書には異例の特記事項が加えられた。この連携を機に、日中の当局は引き続き協力していくことで合意。金融庁の遠藤俊英長官は安倍晋三首相の訪中に同行して今月26日、こうした内容を盛り込んだ覚書を中国側と締結した。(山口博敬) 相場操縦 特定の株の売買を繰り返すことで盛んな取引を装い、株価が上がった段階で売り抜けるなどして意図的に自分の利益を図ろうとする行為。公正な取引をゆがめ、他の投資家の適切な判断を妨害しかねないとして、金融商品取引法が禁じている。